男くさいって、わかるかい?

「忘れ物は もう ありませんねと 機関車は走るのです・・・」 ふいにこの歌を思い出した。小坂 忠さんの「機関車」。僕の中での「日本の名歌100」に、間違いなく入ってくる歌なんやけどね。オリジナルは71年かな?忠さんのソロデビューアルバムやったか。で、それ以来、彼のバージョンだけでも3つくらいは知っているかな?矢野顕子大村憲司という素晴らしいのもあったな。

 今日、頭の中に出てきたのは、74年の池袋:ホーボーズコンサートでのライヴバージョン。当時、恐らく日本でもっともザ・バンドに近い音を出すといわれた葡萄畑というバンドをバックにしたライヴが、数曲アルバムになってて、それを僕と弟はよーく聴いてて。一度終わってからまた始まるギターソロが素晴らしくて、このバージョンを思い出したら、必ず最後まで思い出すなあ。

 小坂 忠さんは、凄く端正なヴォーカリストやと思う。それに、とても東京を感じさせるヴォーカリスト。黒人音楽を好きな歌い手にありがちな、フェイクで自分のスタイルを創っていくってのが、どちらかというと西日本中心のスタイルなら、東京はまず徹底的にメロディを大事にする人が多いと思う。で、その上で、ほんの少し、フェイクを入れてくる感じ。それが物足りないかというと、全然そんな事なくて、メロディを丁寧にパワフルに歌ってくるから、歌の輪郭がぶっといんよな。それが凄くいい味になる。

 例えば有山さんとかユウカだった木村さんとかは、ヴォーカルに独自な「間」とか「クセ」を持ってるやん?それも凄く好きで、それを編み上げた人たちには敬意を感じる。自分だけのスタイルやもんね。関東のソウルシンギングは、その対極にあると思うっていうことを言いたかっただけで、僕はどっちも好き。優劣はないです。

 ティンパンをバックに作った74年の名作「ほうろう」くらいから、忠さんのヴォーカルは凄くストイックに響くようになった。無骨なまでの、メロディ主義。でもそのことが、「ほうろう」を時間を超えた名作にしているとも思う。
ずーっと前に書いたんやけど、数年前に出た驚異の新譜「ピープル」も、全然変わらない歌い方で、もう一回りぶっとく歌が響いてきたなあ。

 ただ、この人の歌は、地味に響くと思う。まともすぎるくらいまともな歌い方と、歌詞の誠実さがそうしていると思う。でも、ムカシから時空を越える音楽って、そんなものだったと思う。最近がおかしいだけでね。ザ・バンドに象徴されるような、滋味の深い無駄のない音楽と、強いヴォーカル。この人だけではなく、要らないものを削いでいったら、みんなそんな音楽になるんやけどね。

 忠さんの歌、聴きたいなあ。ライヴで。
 その横に、恭蔵さんがいてくれたら、もっといいけど。
 このデュオが、聴きたかったなあ。