武道館の奥田民生、2003


 ピンキーさんと上海蟹さんのたくらみで、ヴィデオを見ております。そう、ツアー最終日の奥田民生
 かっこいいんだ、これが。

 何度も書いているように、奥田民生は90年代の中盤〜後半にかけて、化けました。それは昆虫の変態に似た形の、発展的な変化でした。簡単に言うと力が抜けたんやろうと思う。アコースティックギター1本でも雄大な世界が作れるし、轟音の中でも詩情は伝わる。そんな事を体得したんだろうと思います。特にサスライあたりからの彼の作品世界は、そんな、形にこだわりのない、自分のボーカルに最小限のアレンジを施したものになってます。

 それと、肩の力が抜けて出てきたのがビートルズの幻影。ユニコーンの頃から影響は感じていましたが、こんなに学習していたとは知らなかったってくらい、知ってます。それに70年代ロック&ディスコ。この2つがにじみ出る感じで、彼の音楽から出てきました。

 これらの要素が渾然一体となって、2000年以降の彼の音楽は、ロックの滋味があふれ出る、素晴らしく豊かなものになっています。 

 サポートするミュージシャンがまた、素晴らしい。僕は特にドラマーのシータカこと古田たかしと、鍵盤の斎藤ユウタがいいと思う。特に鍵盤の彼は、ウーリッツァーという60年代後半〜70年代前半に大活躍した独特な音色のエレキピアノを持ち込んだり、オルガンも当時の名器ハモンドB−3をばっちり使いこなしたり、ロックを知ってるなあ、ってプレイが随所にあるもんね。 他の人もとにかく、日本屈指のロックンロールプレイヤーです。

 僕はそんな事をここ数年タミオ君に関しては感じてきていました。そういう僕が、03年の彼を今見ています。

 先ず今回のステージセットでほほえましかったのは、足元のモニター(転がし という)が見えない。それと、どことなくアンプの配列やドラムの高さなどのセットが、ビートルズ、なんよね。そんなこと思いながら彼らのいでたちを見ると・・・ビ、ビートルズスーツやんかー! そう。初期のあのヤツ。で、マシュルームカットのような、伸びたようなヘア・スタイルのタミオ君。3曲目でその全容が明らかになって、爆笑です。

 で、何曲かオナジミの曲が進んで。こないだ3人の侍でアコギでやってかっこよかった「ナントカ道を行く〜」と言う曲で、本当に感心しました。か、かっこいい! 下敷きはゲットバックです。アレンジ。で、最後のインプロのトランペットと鍵盤! うまい! とんでもなく大きな世界が現出しました。 で、シータカのフルートソロという笑える局面があって。 で、潔いロックンロールが1曲あって。出ました、へへへい!

 この、ストーンズ「悪魔を哀れむ歌」が下敷きの曲は大好き。はっきり言ってストーンズのオリジナルより最近はすきかも知れん。この間奏のギター!かっこいい。最強のロックンロール・グルーヴだー!おお、勢い余ってタミオまでソロやんけ。ワウ使ってる。 おれ、こいつのこんなとこが大好きなんよな。つまり、ソロで歌う人って割とギターは人任せにするけど、この人の場合発想が違うんよな。自分のギターや歌から全部はじまること知ってるから、ガッチリ聞こえるようにしっかり弾くでしょ。またうまいし。

 Eジュー(30のこと)ライダーです、次。いいなあこの流れ。俺ならここで幸福になるなあ。また、かっこわるいのがいいなあ、立ち振る舞いが。 お、で、サスライかい! えーなーえーなー!ほらほら、バストショットだけなら、そこらの高校生みたいな一生懸命さで、民生君、頑張ってるで。このツインリードがまた70年代なんよな。懐かしい感じがあるなあ。この歌の歌詞はもう大好き。この辺のイーグルズマナーの曲も、彼のルーツやね。

 わはは、へったくそなサックス吹いてるで、今度!こいつって笑かす事も好きやもんな。でもこの笑いが素朴でOKやね。といってると。なんと小原 礼が出てきたで!この、ボニーレイットが激ホメしたベースで、ごっついタイトな8ビートのロックンロール。ご機嫌!すっごいダウンサウス(南部より、くらいの意味)なグルーヴです。ごめん、やっぱ違うわ、アメリカじこみのグルーヴ。ホントガイジンのグルーヴです。おまけにドラムもガイジンやからなあ・・・。サイコー!

 ばはははは!セットチェンジやー!あほなやつらー!笑えるー! と思ったら。ベースの彼がソロを弾き出した。フランシスレイ。で、でかいミラーボールが回りだして、ディスコ!って感じのライヴに。ハデなんやけど、なんとなく切ない感じ。フーン、こんな感情も作れるんかあと感心。

 で、「魂のおとこ、・・・」って歌。やっぱおれはこんなアメリカンロック王道ものがすきやな、タミオ君は。表情もそっちの方が彼らしいし。しっかし上手いなあ、バンド。8ビートでかっこいいって、究極のムツカシさなんやけど、楽々やもん、こいつら。 次の曲でもそうやったけど、タミオ君、ギターガッチリひくんよな。それもソロを。これが彼のスタンスをはっきり出してる。つまり、ギターと歌が不可分なんよな。それが彼の音楽の核なんよ。これを止めてソロで歌うだけになったら、遊びのない音楽を作ると思う。それは多分面白みのないものになると思う。 

 シータカのイノキものがあって(笑)、そっから60年代のイギリスのビートバンドのようなロックンロールが。ああ、そうか。今回の衣装はそういう意味もあったんやね。コンセプチュアル・ワーク。見事です。まるでゼムみたいなバンドサウンド。「生活の危険だぁ〜」という歌です。ばはは、なんで「イノキー!」ってシータカが絶叫するのかわからん。でも可愛いわ、こいつら。 ロックバンドはこうでないと。

 ここでいったん休憩。いや僕が。なんか久しぶりに音楽でノッテ、音楽で笑って。そんなライヴなんで、熱いわ。ここまでMCなんかないわけです。ガンガン曲をプレイする。だからアオられてね。ちょっとクールダウンしよ。

 で。また見始めたら、「君だったら ドウスル?」って歌。これ好きなんよな。…と思ってたら、ここで本編終了。

 アンコールはタミオ君がまたサックスもってる。おお、ビッグバンド風のJAZZYなアレンジ。っていうか全体的にはスウィング・ジャズのような感じ。で、歌ってる事はくだらなーいことで、これがまたOK。シャレ、シャレ。でもとても大事な感覚。遊びは必要です、物事には。

 ほーら出た。次の曲は絶対にシリアスなロックが来ると思ってた。こんなモンですよね。轟音のカッコイイミディアムのロックです。レスポールならでは。 これで終了です。

 やっぱりそうだった。この奥田タミオとそのバンドは、60年代からのあらゆる音楽を飲み込んで、しかし敢えてロックをプレイする集団でした。勿論フロントが奥田君なんで、彼の曲がたたき台なんやけど、その中ではっきりと遊んでやろうという感覚があった、個々に。それがしたたかで、大人のバンドになり得ている理由。

 勿論、メインの奥田君は素晴らしい。特に今回思ったのは、歌詞世界の面白さです。それと、気持ちいいくらいの全力シャウト。それに耐えうる体力と技術。プラス、日本人としての歌謡センス。そう。彼もまた、「日本の」ロックを自然にプレイしている。恐らく、彼のライヴは、現時点での日本のロックの最高到達点のひとつです。この、ほんの少し先には世界がある。でも、タミオ君は世界には行かないでしょう。それは彼の音楽は日本語の音楽だと思うから。

 いやー、見ごたえがあった。 こんなにいいライヴ、ちょっとないよ。