番外編:ナマギ弾き語り


 僕がギターを手にしたのは、71年の11月10日。僕の誕生日に、おやじが買って来てくれたのです。中3だったから、本当は勉強しないといけないのですが、その日からもう、それどころじゃなくなってしまいました。何しろラジオが毎日面白い状態で、新しい音楽がどんどん出てきてるから、テープに取ったり、聴いたり、その上ギターのコードを覚えて歌ったり。特に僕とこは兄弟2人で同じ音楽が好きでしたから、僕がギターを弾いてないときは弟が触ってる状態で、取り合いになりました。

 ギターを抱えたことがある人はわかると思うのですが、特にフォークギターと呼ばれる、スティール弦を張ったギターは、ピックを持って振り下ろしたときに、「ガーン」という響きとボディの共鳴が上半身に伝わる感じが、すごくいい感じなんです。歌うぞこれからって感じ。昔、ディランのことを書いた本のタイトルに「ギターをとって弦をはれ。」ってのがありましたが、まさにそんな感じ。気合が入る。そんな感触が最初は好きで、ガンガンと弾いて歌ってました、家で。

 アコースティックギターには、おおざっぱにいうと小さいフォークギターと、ドレッドノートと呼ばれるちょっと大型のものがあります。昔は小さなモノだけだったのですが、カントリー&ウェスタンが流行ってきて、大会場でプレイするときに大きな音がいるから、ドレッドノートが作られて来たらしいです。
また、メーカーの系列でいうと、ギブソン系とマーチン系にも区分できます。ギブソンは長い間バイオリンやマンドリンを作ってきた由緒あるメーカー。ここのギターは、みんなそれぞれ個性的で、僕は大好きです。一時ハミングバードっていうギターを持ってて、すっごく好きだったんです。とにかくストローク(ピックでがんがん弾くこと)やると、ド迫力でなりました。男っぽい感じ。もう一つのマーチンは、どちらかというとギター一筋ってイメージがあります。ここのはもう、世界標準というか、全ギターのお手本になったフォームと音です。感心するのは、いまだにハンドメイドの部分を重要な工程として残してるところ。それとか、ネックの永久保証とかの、品質重視であるところかな。

 最近のギターは、すべてこの2大メーカーからの亜流だと思います。面白いのは、ここ10年ほどの間で出てきたギターは、カナダ産にとても安くていいのがあることと、ヤマハなんかが開発・研究しているギターの一番大事な部分=表板の、一番良く鳴るギターの音を解析して、そのギターの材質になるよう木の繊維を再合成して表板を作る ことかな? まあクローン、ですわな。でもそうでもしないと、ワシントン条約で、85年以降、表板に使うブラジリアン・ローズウッドという木が伐採制限を受けてるので、いい素材がないわけ。

 ナマギ(=生ギター)は、やっぱ基本です。これが弾けなければギター弾きじゃない。クラプトンも、キースも家ではナマギに太い弦を張ってプレイしています。スティービー・レイ・ボーンというブルーズギタリストなんて、ナマギの弦よりも太い弦でエレキ弾いてます。なぜかというと、さっき書いた抱える感じと、豊かな音がするから。

 これはもう好みの問題でしょうけど、僕は、PAもなんもなしで、目の前でプレイされたときにいい演奏が出来るかどうかがアーティストの真価だと思うので、アンプラグドにはこだわります。いいバンドとかいいアーティストって、みんな生音がきちんとしててただの拡声にしかPAは使われないから。

 山崎まさよしって人や奥田民生はエライ。ウン万人の前でナマギ一本でツアーって、これ、すごいことなんです。「自分を全部見せたる!」ってことです。ライヴが進行して行く中での迷いや戸惑いや喜びを、みんなで共有しようや、おれ、見てもらったままのやつやけど、ちょっと頑張るからってこと。それと多分、自分を試してる気持ちもあると思う。「一人で何処まで出来るか」を。そんなこんなの根本にあるのが観客と自分は対等や、あの人らとおれはなんも変わらん、俺がえらいわけでもないってスタンスなんですが。売れてる人はそこまでしなくてもいいのに、ヤツラはやる。ここがエライ。

 大会場でナマギ1本って、でも、やってるほうはすっごい気持ちいいです。ホールの残響がPAの音の向こうに消えて行くところまで聞こえるんです、プレイヤーも。空間の広さや奥行きをきっちり掴める。これはカタルシスがあります。

 部屋の中で一人で曲を作ったり、好きな人に1曲聴かせるために歌うのとは違う決意をもって、ナマギ1本でステージ袖からセンターに出て行く。そのときに一番気になるのは、ギターのことです。「おい、上手く鳴れよ。弦。切れるなよ。」とかね。 もう、完全に相棒であり武器ですね。そうして1曲目が終わる。幸い拍手をもらえたら、そのときプレイヤーは間違いなく全員、ほぼ無意識にギターの何処かを強く握っているのです。それはきっと「ヨーシ!」っていう確信や、相棒への賞賛だと思います。だって、どんな大きな会場ですごいPAでプレイしても、自分の上半身にはギターの共鳴が響いているんです。だから、相棒なんです。

 こんど好きな人のライヴを見に行ったときに、たまたま弾き語りがあったら、曲が終わって拍手をもらった後のアーティストの「手」を、一度見てみてください。 ちゃんとその手が、語ってますから。