番外編 : CHAKA with 中西康晴


 チャカ。 1980年、大阪にちょっといいバンドがあるで、と。その名はアフリカ。 たまたま弟のバンドが出ていたコンテストの関西大会決勝で、そのバンドを見ました。圧倒的なパワーとゴージャスなステ−ジングで、P−FUNK系のファンクをどっかーんって感じでやってました。中でも目立ったのがインディアンのチーフの格好のリードボーカルで、彼女のヴォーカルには鳥肌が立ちました。 それがチャカとの出会いでした。

 そのあと、どこでどうなったか知らないけど、サイズに参加して最先端のサンプリングPOPをやっていったのは有名ですが、彼女は平行してソロ・プロジェクトの「昆虫採集」という童謡やトラディショナルをうたう活動も行ってました。その2つの活動の柔軟さから、この人のルーツは、単なるPOPじゃないなあとは思っていました。で、何かの拍子で彼女はジャズ・ミュージシャンの子どもであったことを知りました。 それで、全部つながったのでした。「ああ、生まれたときから音楽があったんやな、やっぱり。」ということです。そうでないとこんなに貪欲に・かたよりなく、いろんなものを人前で歌えない。

 すごいビート感。エイゴの発音。黒人音楽の解釈。初対面の時、アレサ・ヴァージョンの「HOLD ON,I’M COMING」をバクハツしていたあのノリ〜一転した童謡のPOPな感じでのアプローチ。 90年代に入ってからは、WOWWOWの番組「レコーディング」でのレギュラーとして、名うてのスタジオ・ミュージシャンをバックに、古今東西の名曲を自分なりに歌いこなすその深さ・広さ。

 彼女のヴォーカルは、矢野顕子さんのピアノみたいなものだと思います。つまり、声が自在な表現のツールになり得ているということ。 それは、難しい歌も全然そう聴こえないくらいやすやすと歌っているように聴こえるほど自在なのです。それと、他の沢山の女性ヴォーカルと全然違うのは、ブラック・テイストがどんなときにも匂うフィーリングがあるということ。そう、童謡を歌っているときですら。

 そんな彼女が、さっきTVでスティーヴィーの「LATELY」を歌ってました。バックは、いまや日本のPOPの中ではたぶん一番歌うキーボードを弾く中西康晴。それと、ウッドベース。 最初パソコンに向かっていたので、音だけ聞いてたのですが、一瞬でチャカだとわかった。久しぶりに聞く彼女の声は、やはり雄弁でした。素晴らしい表現。それはスティーヴィーのヴァージョンに敬意を感じつつ、自分なりのフェイクを加えたものだったのです。 それを、上田正樹に「奥歯かみ締めて、ナカニシ!」といわれたあの独特な引き方で丁寧にフォローする中西康晴。よく歌います、彼のピアノ。 あんまり知られてないのですが、彼は隠れた名ヴォーカリストでもあります。一度なんかで彼のソウル・バラードを聞いたことがありますが、なんでソロで出さないのか不思議なくらい、ウタが良かった。そんな人だから、ヴォーカルのフォローは最高です。それはもう、サウス・トゥ・サウスのころ、高校生のころから。

 70年代後半に、関西で音楽をやっていた人たちなら、若手のトップ・プレイヤーとして知らない人はいなかった2人。その2人がこうやってあの当時の最高のバラードを、NHKのTVで歌っている。20年前、だれがこの状況を想像したのでしょう。  長く音楽の周辺にいると、こんな贈り物があるから嬉しいのです。