1988−1992くらい

  

86年頃から、世界的に始まったものすごい量のCD復刻ラッシュ。日本でも、ROCK・JAZZの名盤の有名どころが一気にドっと発売され始め、しかも輸入盤は、たいていはかなり安い値段だったので、中学・高校生だったころ、欲しくても買えなかったものを中心に、ぼくも手に入れ始めました。

それと、やっぱ音が気になるので、レコードでもってても、CDで買っておいていいものも買いました。特にアレサのアトランティック時代のものは、結局その後7年くらいで全部買いました。やっぱ、低域なんかはちょっと違う音になるけど、とりあえずクリアな音質になってうれしい物が多かったから、これはお買い得でした。

そして。ついに88年頃から、日本のロック黎明期の作品が発売され始めました。最初の100種くらいは、どのレコード会社のものでも、そこそこの売上を記録し、様子を見ていたレコード会社が、本気で当時の音楽をリリースし始めました。それはもう、怒涛のCDラッシュでした。特に、URCの復刻が始まった89年は、ぼくも思わず毎日のようにCD屋さんを覗いてたものです。というのは、他の会社からも突然リリースされる過去の名盤がたくさんあったから。そして、それらのリリース情報は、ほんとどこにも載ってなくて、「出てたら買う」を鉄則にしないと、すぐになくなっていました。それくらい売れていたのです。

この、第一期CD復刻ブームには、いまだに悔しい思いが残ります。というのは、買いのがして、そのままもう復刻されなくなったものが含まれていたから。特に、東芝からの60年代〜70年代ものの中にはそのパターンが多くてね。とにかく、この「ロック・ブルーズ・ソウル・ジャズのCD復刻」が、後の日本のロックにもたらしたものは、計り知れなく大きい意味を持ちます。いくつか挙げてみると、

① 音楽が重層化した
それまでは、最近のアルバムからのヒット曲が生まれるだけだったPOPのマーケットに、或る日突然、過去の膨大な遺産が出来たわけです。そして、其の音楽をシンプとして新鮮に感じて聴く若い子達が出てきました。この子達は、89年時点でのシンプと、そんな音楽を平行して聴いていきました。その結果、60年代の音楽にも知識があるティーン・エイジャーが90年代以降のロックを作ったりすることになっていきました。

② ロックファンが高齢化した
何時の時代でも、若いこの音楽だったPOPが、この復刻によって、当時のROCK少年&少女達の目を覚ましました。彼らは、長年いっていなかったCD屋に、友達の話や雑誌から知った昔のアルバムのCDを買う為に、足を運ぶようになりました。その結果、CDの客層は飛躍的に広がり、当然CDラジカセなども売れ、ロックを聴く層は過去で一番厚いものになりました。

③ ジャンルの垣根が薄くなった
これは特に、若い世代の人が、闇雲に過去の音楽を買ったときに、知識がないから間違って買うことがある。で、その間違ってかったものを好きになる。例えば、R&Bのイナタイ感じが欲しいけど、モータウン買うとか。僕も昔そうでしたけど。んで、たくさん聴いていくうちに体系がわかってくるんやね。多分この88年くらいからの復刻ブームで過去のものを手に入れた人は、サンプリングされた元アーティストを偶然知ったりしてますよ。それで、ヒップホップからJBのブームが起こったもんね。

 などなど。 とにかく、日本のロックは、この洪水のような過去の財産の再発売で、たくさんのものを手に入れなおしたと思います。
何より、CBSソニーの1500円での斎藤哲夫とか中川イサトなんかの復刻で、彼らがまたライヴに復帰できるきっかけになったことは、いくつものいいことの最上位に来る出来事でしょう。そして、彼らを小さなライヴハウスで見て、70年代の音楽にハマリ、アルバムを買ったりコピーした人たちが今、日本のロックの最前線に立っています。斎藤和義、奥田民生スガシカオ山崎まさよし、などなど・・・。僕はここに書いた人たちが好きです。それは、この人たちの音楽をプレイするイチバンの動機が、「自分に近い目線のだれか」に歌いかけるって所にあるから。 それって、かつて僕らが日本の優れたミュージシャンからもらった姿勢とおなじだから。

 
 にもかかわらず。表層では、日本のロックは、へんなものがはやり始めてました。バンドブーム。この、TV番組から作られたアマチュアバンドのデビューシステムは、せっかくインディーズがもう一つの誠実な流通を作り始めていたときだけに、それを壊した意味でも、また、ロックをかっこ悪いものにした意味でも、当時とても残念でした。だって、下手やったし、幼稚やったもん、あそこ出身のバンドって。でも、時代はバブル。強大な「欲」が、ありとあらゆるものを貪っている消費だけの時代でしたから、こだわる奴らは嫌われました。だから僕は黙って少年時代の仲間のバンドに加えてもらって、そこからまた音楽を始めました。

 バブルはでも、ひとつだけいいものを生みました。それは、上に書いたCD復刻やロック関係の貴重な本が、一昔前なら信じられないマニアックなものまで世に出されたということです。僕はこの時代(88-94年くらい)に出版されたアメリカのロック関係の本や、白夜書房からの一連のまるで自費出版のような「定本もの」を結構買いました。その中には、名著「モータウン・ミュージック」や「アトランティック・レコード物語」などがあります。多分、これを日本の市場に出した人は、ドサクサにまぎれて自分の趣味で出版したのだと思います。文庫本でも、ロックの面白い企画がどんどん出てきましたし。 

 そんな、消費主義のような時代でしたから、音楽そのものはもう、何でもよかったんじゃないかな。ほら、この数年間って、メガ・ヒットがたくさん出たでしょ? ユーミン・達郎・浜田省吾・サザン・大嫌いなハウンドドッグ・・・。おまけに、たま、とか。それとやたら応援歌みたいなのが、流行らなかったっけ? 僕はこの人たちのなかで、いまだにカッコいいなあと思うのは、達郎さんとサザンだけです。それは、例えば達郎さんは自分の巨大ヒットで得たお金でスタジオを作り、そこでいい音楽を安定供給しているし、サザンはちゃんと時代を見て出たくないときには出てこないという誠実さを示してくれるから。

 このころ、かつてのロックが持ちえた「場」や姿勢を出していたバンドが、ストリート・スライダーズでした。ストーンズのような感じから、どんどん自分たちの世界を作りえていたこのバンドは、本当にかっこいいグルーヴを持ってました。これは惹かれたなぁ。
それと、キヨシローの活動。もうこの頃には、公然と「RCのファンでした。」というバンドがデビューしてて、そんな奴らの100倍カッコいい「元祖:ロックスピリット」全開の、ちょっと過激な活動を展開していきます。

 ここらへんの時代は、僕は新しい仕事・新しい音楽・新しい土地になじむのに少々時間を取られたので、とても音楽をじっと聴いている余裕がありませんでした。なので、今回の内容はちょっと大きなうねりを書くにとどまったかなあと思ってます。