番外編:山崎まさよしの印象 

 最近、僕のサイトによく来ていただくピンキーさんから、彼の一人でのライヴを聴かせていただきました。「ONE KNIGHT STAND」というCDを中心に何曲か。やるやん、このタイトル。アメリカでツアー・ミュージシャンが50年代からよく使ったこの言葉。「1夜興行」といって、翌日には次の町に出かけるような、激しいツアーを消化するマイナーバンド独特の形態を、タイトルに持ってくるんやからな。そのスペルは「ONE NIGHT STAND」。なんか、小粋なしゃれやね。センスあり。

 「ステレオ」。気合はいってます。この人ってエレキギターも弾いてるな、きっと。コードワークがエレキのそれやもん。それと、やっぱり60年代のロックが・R&Bが絶対重要なルーツになってる。この曲のギターはもろやもん。それと、歌のノリ。完全16ノリ。かりにギターなしでアカペラで歌っても、ビート感がある、いいノリ。かっこええやんかー!

 「FAT MAMA」。うわー!ジミヘンのギターやんけ!これで歌うかぁ?コイツ、上手いなあギター。それと、声。よく鳴ってる。全身で歌ってるのがよくわかる。恐らく、実現したい音像がちゃんと頭の中にあって、それをエッセンスだけ抽出したようなギターだけのパフォーマンス。フェイクももろ黒人。 この2曲は本当にカッコイイ。声がこんな曲むきやな。ちょっとブラックな感じを消化した歌い方も、ええぞ。

 「ある朝の写真」たぶんフットステップかな?コツコツ…という音。急転直下のスロー・ミディアム。でもちゃんとビートがある。これやねん。これが音楽をきちんとやってきた証拠。バラードでビートがなくなってしまうと、その曲が死んでしまうことをよく知ってる。

 「ONE MORE・・・」。この曲は、前から知ってて、好きでした。ええ感じのピアノ弾き語り。なんか、情けない男の歌なんやけど、ファンにはぐっと来ると思う。しかし、ストーカー一歩手前の情感ではあります。ピュアな気持ちを歌うことが難しい時代に、こんなにストレートなところが、彼の大きな魅力の一つでしょうね。

 「ツバメ」。ソー・ファーラウェイのようなイントロ。でも曲が始まったらこの人の世界。「僕の声、届いてますか。」という歌詞は、クルなあ。コイツ、ほんといいヤツ。自分のリスナーを思って創った曲が、こんな私信のように聞えるなんて。それもたぶん、作為はない本気の感情で創ってる。サイレント・マジョリティーの中から出てきた、「ただの歌うたい」だと、自分では思っているのでしょうね。

 「PASSEGE」。ハープがええなあ。ほら、またフットステップが。この辺が大地にたって歌っているヤツの特徴。素晴らしい心象描写。一人の男の「葛藤」とか「祈り」。それを、汽笛のように鳴るハープで、旅の途中を表わしたサウンドで包む。これって、ブルーズマンのやり方やんか。ギターのサウンドも、ギブソン独特の乾いた音。やるなあ、山崎。おれはわかるで、君の気持ち。

 「アレルギーの特効薬〜WHAT’d I SAY」。かわらしい! これってね、お客さんが気になってくるんやと思う、バラードばっかだと。んで「踊るか?」ってなる。この気持ちがかわいいじゃないですか。…それと、このおどけ方。僕がこの場にいたら、もうバク笑していると思う。あんまり微笑ましくて。おお、ダンス天国まででてるやんか。しかし、ええノリやな。ばっちりや。オリジナルに有名曲を混ぜてやる人って、僕、信用します。自分がどこからきたのかネタばらししながらやってるのと同じやから。 

 「パンを焼く」。おお、FUNKや。見事なギターワーク。上手いぞ、コイツ。恐らく、山崎少年は、昔好きな曲に合わせてギターを弾いてて、それがだんだんオリジナルになっていったのだと思う。だから無理がない。ギターとうたと自分が出すビートに、嘘がない。なんと言っても楽しい。あら、次は「モンキー・マジック」? 早口言葉? はっはっは!

 「やさ男の夢〜昼休み」速いブギーやん。こんな音楽、何処で知ったんだろう?関西系のミュージシャンが得意にしていたラグ〜ブギのナマギでの演奏。やっぱり憂歌団あたりかなあ…。いや、もっとマイナーなところまで知ってるかも。しかも後半はセカンド・ラインだぁ! 黒人音楽ゴッタ煮状態。

 「おうちへ帰ろう」。ユウカ団か?そのルーツの、ジム・クウェスキン・ジャグバンド周辺のミュージシャンまで知ってるのか、こいつ。ウッドストックのミュージシャンあたりかもしれないなあ。とにかくよく知ってる、過去の音楽。それも、難しく聞いていない。本当に楽しんで聴いてきたんだろうな。だから、楽しく自分のものに出来てる。感心の「ふーん。」

 「灯りを消す前に」。ちゃんと言いたいことをストレートに伝える。ヘンな外国語がない。美しい言葉。
いいじゃないですか。最後の挨拶、よかった。「ありがとうございました。」…これって、恐らく初めて彼がライヴハウスに出た時から同じだと思う。いや、別にありがとうでもなんでもいいと思うけど、彼は本気で言っているみたいやから。

 …というわけで。今回、初めてまとめて彼の音楽を聴きました。それもライヴで。全体的な印象としては、ギターと歌が分かちがたく結びついての表現がとても気持ちいい人だということです。普通ナマギターではやらない奏法を、ごく自然に持ちこんで自分流に消化して出してる。それと、年齢なりの歌を作って聞かせているなあということです。若い子に合わせたり、背伸びしてムツカシイところに行ってたりしていない歌詞。はしゃぐところははしゃぐ曲。パフォーマンスも、ごく自然な感じに思えました。

 一番感心したのは、ライヴハウスの規模もホールも関係なく、誠実に全力でお客さんとむきあっているところかな。なぜわかるかというと、これはもうこのCDの録音のし方で一目(聴)瞭然。なおしがない。録音したそのままをミックスして発売してるから。

 たった一人でステージに立ち、自分の音楽をみんなと共有することを、こんなに楽しんでいるアーティストは少ないと思います。ライヴが好きなんでしょうね、きっと。っていうか自分の歌を気に入ってくれる人がいることが、嬉しくて仕方ないんでしょう。そんな素直さがとても気持ちいいライヴです。音楽はとても豊かなバックグラウンドを持ってるし、曲はいいし、なにより、人柄よさそうやし。

 こりゃ、人気でるわ。