番外編:素晴らしい音楽を、聴いた。


 それは、2000年12月、トウキョウ・青山劇場で起きた奇跡です。その日、ギタリスト・大村憲司さんの追悼に集まったミュージシャンが、彼に手向ける意味でのたくさんのパフォーマンスを行いました。その模様が、2001年3月にBS2で流され、僕はその場にいなかったことを悔やみました。

 ベーシックなユニットは、DR:沼沢 尚 BASS:小原 礼 KEY:中村 哲 PIANO:矢野顕子 PER.:浜口 茂外也 。世代を超えた、日本最高峰のミュージシャンの一角です。そのリズム隊が、アディッショナルゲストにメインを取らせて、進行していきます。

 1曲目。憲司さんの曲、LEAVIN’ HOME。 ここ数日、この曲のメロディーがアタマから離れません。憲司さんらしい、おおらかでストイックなメロディを、ゆったりと、しかし緊張気味に、朝倉さんがギターで歌います。故郷・神戸を想ったこのメロディー。アメリカンミュージックを身体に染み込ませた憲司さんらしい、素敵なメロディー。 この曲もかなり良かった。でも、奇跡は、まだ降りてこなかった。

 ・・・やがて、CHARが出てきました。憲司さんの亡くなった日にちなみ、「しし座流星群の夜」と名づけられた曲が始まりました。矢野顕子さんの弾く、フリーなアルペジオに答えて、小原 礼さんの豊かな、音数の少ないベースがきました。そして、CHARがハーモニクスでテーマを弾き始めます。沼沢さんのビートが載ってきます。もう、この辺で映像は必要なくなりました。4人の会話が始まったのです。

 いつになくトリッキーなプレイのCHAR。それは、会場の何処かで浮かんでいる、憲司さんを明らかにイメージしていました。まるで、彼がそばにいたら自分はこんなプレイをするよ、といわんばかりのギター。その思いを、この屈強なリズム隊は受け止め、それぞれがCHARに反応していきます。CHARが歌い終えたらすぐに矢野顕子が応じる。小原礼が答える。そんな、うなずいたり、遊んだり、はやしたてたりといった「会話」が、どんどん膨らんでいきます。そしてその曲は、奥行きをましていきます。

 どんどん高みに上るCHAR。答える沼沢さん。そして、エンディングに降りてきたCHARと、音で会話する矢野顕子と小原 礼。・・・魂を鎮めるような、エンディングです。 

 かつてボニー・レイットのバンドにいた小原さんが、ミカバンドの再結成のために帰国したときのプレイを聴いた時から、彼は僕にとって日本で3番目に好きなベーシストになりました。歌うのです。ベースが。それは矢野顕子さんも同じ。心で弾くピアノ。 その2人が、CHARのソウルフルな歌い方に反応し、凄い世界をこの曲で作り出しました。 

 残念ながら、この演奏はもう聞けないのでしょう。でも、こんな素晴らしいプレイをする人たちが、日本にちゃんといるってことだけで、うれしいじゃないですか。 この人たちの本気を引き出した憲司さんは、やっぱり凄い「人」だったのでしょうね。