売れる・知られる

 うーん。えらいムツカシイとこ突いて来られたなあ。 なのかさんから、「どうしていい音楽をやっている有山さんたちが世間に広まらないのか。簡単に説明せよ。」とのリクがきたのです。これはね、簡単だけど、日本の音楽産業が抱えている今1番大きな問題に関わるところもあるので、上手く言えるかどうかわからないけど、書き始めたからいけるとこまでいこかな。

 一言で言うと、流通経路が違うのです。現在、TVやメジャーなラジオ(AM・FMとも)で流れる音楽は、簡単にいうとカネのある代理店や音楽事務所がメディアに売り込んで、何らかの形で買ってもらって流れるわけです。その、買ってもらうお金は馬鹿馬鹿しいほど安いけど、オンエアで入ってくる利益を考えて、事務所はOKする、と。で、人気が出てヒットする。メディアが選択の参考にするのは、無難な質があるという点と、なにより売り込み量の圧倒的な多さで、メジャーからのアーティストが中心になるわけです。 かくして、メジャーな事務所・全国ネット・メジャーレーベルというメガヒットの構造が出来るのです。音楽雑誌という媒体も、全国的に販路を持つところになるし。

 もう1つの流れは、いわゆるインディーズです。これは、上に書いた流れの縮小版なのです。規模だけが違う。つまり、インディー・レーベルがローカルなFMやライヴハウス外資系のレコード店にプロモーションをかける。行ったとしてもそこまで。あとは、局地的にライヴの動員が凄かったり、スキャンダルなことが付いて来たアーティストが、現象としてニュース扱いで取り上げられる時に、メジャーなメディアに登場するわけです。

 基本的には、上に書いた2つの構造は、交わらないようにメジャーラインが仕組んでいます。自分達の既得権益を守るためにね。 ・・・と、ここまで書いてきたところで、ブレイク・スルーはネットでできるやん、って思った人もいると思います。ところが、ネットはここ数年のブログ大流行でも分かるように、非常に小さなコミュニティが無限に出来るメディアになりつつありますから、結局インディーな動きになるようです。 CSなどの衛星放送系もそれに近いかな?視聴者がミニな規模やから。

 構造はこんな感じ。ただ、ここに、アーティストの利益が絡んできます。まず、メジャーラインの場合、想像できるでしょうがアーティスト還元は非常に少ない。経費が莫大にかかるわけです。ところが、実はインディーズの場合、CDのペイライン(損益分岐点)は非常に低く、なおかつ、ランニングコスト自体も低いのです。なぜなら、始めからカネはないからすべての製作プロセスが安いから。それに、ライヴも大規模会場でやる予算は無いかわりに、小さなところでも経費が安い(バンドなしとか、マネージャーなしとか)から、アーティスト還元率がわりと高い。

 さあ、ここからはアーティストの選択ですね、だから。古くから歌っている知名度の高い人は、ガンガンライヴハウスを回ったほうが、自身への還元率は高いのです。そこそこ動員はあるからね。そこに会場でCDを販売すれば、おおよそ2000枚以降は全部利益でしょうから、日銭は入ってくるし。 でも、全国的にいっせいに知られる仕組みは、残念ながらないわけです。

 「知名度が高くて、音楽以外は人がやってくれて、でも不自由になるのか。それとも、そこそこ食べれて、全部自分でやって、ある程度自由にやれるのか。」・・・ながく音楽活動をしている人たちは、今まで自分が作ってきた行商ルートがあって、そこをたどっていくことで着実に知名度をあげ、そこそこ食べれるような状態を維持したいと思うだろうなあ。自由はある程度確保できるから、表現に水を差すバカも少ないだろうし。

 可哀相なのは、メジャーで売れてしまった音楽が好きなアーティストたちで、彼らの後ろには、事務所スタッフやレコード会社の担当社員、地方のイベンターたちの生活があるわけです。だからどうしても製作物は本質的に「売れつづける」ことが望まれます。もちろん、メガヒットしてると、印税がアーティストには入りますから、ある日突然家が買えたりベンツが買えたりしますが、何十年というスパンで見た場合の収支はどうなのか。これは分かりません。ハイリスク・ハイリターンが付きまとう。

 で、今後もこの2部構造が続くのか。今、必死になってネット配信の可能性を模索している音楽業界ですが、やっぱり世界規模でマーケットを考えられる環境にいる=メジャーにいる人たちの中からしか、その答えはでないでしょう。それか、例えば株屋さんのような、業界と市場のニーズを秒単位で睨んでいる視点をもった音楽好きが仕組みを作らないと、土台からのひっくりかえりはムツカシイ。僕はそう思う。

 だとすると、バイヤーである僕らはどうしたらいいのか。これははっきり「ストリートに出よう。ライヴに触れよう。」ということです。幸い、ネットの普及やPC設置の蔓延で、すべての業態で、ある世代以上には「もうライヴしかない。なんにせよ、ナマのパフォーマンスがいいものしかだめだ。」という認識が生まれつつあります。ライヴ形態が貴重で最後の価値判断になって来ているのです。 だから、2つ目の流れに当てはまるミュージシャンが好きな人は、どんどん友人をライヴに連れて行く。それと自分のブログで書く。つながりを作る。人気が出てきたら、メジャーへの選択が出てきますが、それは彼に任せたらいい。幸介さんのように、廃盤になることが少ないMIDIレコードというメジャーとインディーを併用する人もいますからね。

・・・どうです? これらの事をヒントに、みんなの好きなミュージシャンの周辺を考えてみるのも、たまには面白いと思いますよ。