テクノロジーがPOPを駆逐する、のか?

ykawabata452005-08-27

 97年。今からもう10年近く前に立ち上げられたミュージシャン支援団体のHPに、「結局この国で音楽で食べていくには、ミュージシャン主体に物事を運ぶ仕組みを自らで作らないと。」という趣旨のあいさつがあります。

 時間が経って。それから約8年。日本のミュージシャン、特にPOPSを主体にする人たちとその周辺のミュージシャンは、果たしてそれを仕事と呼べる状態にあるのか。「自分でプロであると言った瞬間に、あなたはプロだ。」という至言がありますが、これは大変難しい問題です。 

 難しくしているのは、テクノロジーと音楽の関係。 そう。DAWと呼ばれる、PCでの音楽作業の過剰な活躍です。

 もうすでに現場レヴェルでは始まっていることなんですが、例えばサンプリングでSガッドの渾身のワンショットを捉え、それを自身の作品にとりこむ。いい悪いじゃなく、この作業がもたらす影響を考えると、一つは、こうやって作り手はラクにいいプレイを安く手に入れる(スタジオ代、オペ代、ガッド代要らず!)。それにそのデータは永久に残る。 

 次の位相は聞き手の問題。よっぽどのことがない限り、聞き手はサンプルの元ネタまでさかのぼれない。つまり、匿名の超一流ミュージシャンの「過去のプレイ」に感動する。でも、それがサンプリングであることは、音の質感でわかるから、そこで知識欲を遮断する。うん、誰か探す労力が膨大やからね。

 あまり語られていなかったのですが、ここからが今回の言いたいこと。じゃあ、サンプルされたミュージシャンたちや、そんな仕組みが蔓延するとどうなるか、いや、いますでにどうなっているか。

 ギターマガジンの数年前の記事に、70年代までのNYスタジオミュージシャン達の仕事振りが分かる記事がありました。ヒュー・マクラッケン、D・スピノザ、F・アップチャーチなど、現在のPOPミュージックを作り上げた偉大なギタリスト達の証言です。70年代、彼らはNYの4つくらいのスタジオに、それぞれ自分のアンプ・ギターを置いて1時間単位で一日20セッションくらいの録音をしていたそうです。1セッション平均5万円。ただし印税なし。

 そんな生活が、80年代中盤から激変し、仕事が減り始めます。PCの登場ですね。で、今では、そんな大御所がスタジオで録音できるのは、スーパースターの生レコーディングだけで、日々の暮らしは、かつてのビッグスターのツアーでバッキングクルーになっている人が半分、あとは、引退して違う仕事をって書いてました。

 ギターはサンプリングでも大丈夫やろう!僕はそう思ってました。あの音は不安定過ぎてサンプルしても意味がないからなあってね。見落としていたのは、「サンプリングで音楽を作れるなら、ギターはいらん。」という発想をするミュージカルディレクターが育ってきたことでした。 その結果、彼らの仕事が減っていったわけですね。

 そう。あらゆる楽器プレイヤーの仕事が、90年代に激減したのです。その結果、POPミュージックは、大変貧弱な状態になっているのです。

 仕事がないミュージシャンは、仕方ないから音楽から転職するわね。それが沢山起きると、楽器演奏の標準レベルを保ったウデの人がみんな引退するから、ナマでウマイ演奏を聞く機会が減る。だからいいプレイヤーが減るという悪循環が、数年前から日本でも始まっているのです。


 んなことないで、関西の70年代からの人やCHAR達はやってるやーんって声がありそうですが、あれはライヴでギャラが出て食べて行けるから。そうじゃない、超一流のすぐ下ランクで、今まで日本のスタジオワークを支えていた人たちが、根こそぎスタジオから職を奪われてるのです。また、超一流の人たちもギャラが下がっている。 あのポンタさん・井上アキラさん・山弦のギタリストの小倉さん が、昨日の福山マサハルのTVバンドでバックやってるなんて、僕は見た瞬間鳥肌立ったもんね。 あり得なかったもん、こんなこと。 それくらいスタジオの仕事量は変わり、それがライヴミュージシャンの雇用も変えて、日本では今や働き盛りの中年ミュージシャンが、ごっそり消えてます。

 こんな現状を考えると、音楽専門学校で楽器演奏や知識を仕入れている若い子達の「就職」は、かなり厳しいと言わざるを得ません。バンドを組んでライヴからやるか、自宅でゲームやアニメのアレンジとHDDレコーディングするか、ネットに自作を売っていくか。録音が仕事として減るということは、そこに従事する色んな仕事もなくなるということで、例えばエンジニアの人が仕事なくなっていくと自分で練習スタジオ作ったりする。ここでもまた音楽のレヴェルダウンがあるわけですね。

 書きながら思っているのは、「POP音楽の出来あがり方そのものが変わってきているから、仕事の質も変わるわ、そら。」ってことね。でも、以上を考えると、間違いなくPOPSは、80年くらいまでの劇的に変化していく様相はなくなると思う。それは世界的にね。日本のメジャーなんて未だにアメリカの猿真似でしかないから、もっと貧弱になるやろうね。
演奏家の世代が重層化していることは、「芸には伝承の部分も必要」と言う事実を考えると、不可欠なんよ。簡単に言うと、基本をやさしく伝える人口がへるということは、その文化全体が痩せるということやと思うんよな。

 これ書いている05年8月に、「だててんりゅう」でアメリカツアーにいってきたマモル君は、現在のアメリカのロックについて、「重い、エッジの立ったアンビエントな響きでないと先端じゃないかんじやな。」と言ってました。これ良く分かるのは、ロックをどう新しくするかと考えると、もうその辺しかないんよな。つまり「響き」の部分しか新しさで人を覚醒させられない。メロディは19世紀に出尽くしているといわれるけど、ビートも割と近いところにあるし、そこに持ってきてサンプリングで過去のグルーヴしか使わないもんね。

うーん。暗くなってくるから、いったんここで終わり。