番外編 玉置浩二の悔しさ

ほんとにねえ、悔しいんよ。売れてて、素晴らしい音楽作ってて、それでも多分「日本のロック」を語るときに漏れる人がいるわけです。その代表が安全地帯であり、玉置浩二であり、スターダスト・レヴューであり、スピッツなんよなあ。好き嫌いがあるにせよ、それは認めないと。

玉置浩二。この人の音楽的才能は凄いもんがありますよ。特に作曲能力とヴォーカルね。安全地帯のアルバム聞いたとき、ちょっと凹んだもんなあ。その思いは未だにあるわ。彼らの登場した時代はシンセ全盛期で、なーんでもケンバンが入って安いオトを鳴らしてたんやけど、「ワインレッドの心」にせよ、そこからの一連のヒットにせよ、実はケンバンは最小限で、メインはギター2本と歌や。その考え抜かれたアンサンブルに、まず脱帽。それに、あのヴォーカルね。歌詞は、まあ、その、歌謡曲やけどね。

たとえば、君が「ワインレッドの心」を思い浮かべる時、例の部分をイメージしませんか?「あのきぃえそぅでもぉえそぉな・・・」って所。僕はそう。それも、声そのものとタメのある歌い方。ハッキリ言ってこの時の玉置浩二はキライなんやけど、それでも思い浮かべる。これなんよな。ヴォーカルの凄さって。声の響きを焼き付けるチカラ。ヴォーカルの力が強いと、歌詞は記号になる。この点で、達郎さんやハナレグミに並ぶか、事によってはそれ以上のものを玉置浩二は持っていると、僕は思うのです。

最近の中では「メロディ」。あの歌はとんでもない。もし日本のPOP100曲ってのがあったら、その上位に入れないといけない。いい曲の見分け方は簡単で、隣のおっちゃんが歌ってもいい曲は光るもんなんです。あの曲はそんなものの極めつけ。そこに玉置のあのヴォーカルで行ったら、鬼に金棒キチガイに刃物。無敵。幾つも泣くところあるもんね。

そのメンタリティの高さで、ロックジャーナリズムは玉置をロックの文脈から離していると思うけど、それは大間違いや。だったら、キャロルキングやジェームステイラーを語るなっていいたいわね。それに、X−JAPANのあの稚拙な楽曲はロックなんかとも思うしね。なんていうかな、基準がね、評論家の好みでの「自分のロック観」やねんな。「ロックは○○だぜー!」っていう、子供じみた誇張というか。ハッキリ言って「玉置浩二をロックという自分が恥ずかしい」って位の音楽への愛情しかないわけで。

あの人の膨大な歌の記憶力と歌唱力、それにそれらへの愛情の深さは、とてもロック評論家たちのかなうものではありません。戦前の日本の歌謡曲から最近の歌まで、全部ギターで弾いて歌えるからなあ。勿論、ロックもR&Bも一部のジャズも。そこに加えて、奥さんと二人三脚での音楽製作の妥協のなさ。あの人は自分の音楽への愛情を、上手く語れないだけなのです。でも、ミュージシャンが上手くしゃべれることが必要でしょうか。音楽が良かったらええんちゃうの。

スタレビ。このバンドがメジャーシーンに出てこないのは、驚異的なライヴ本数をこなしているから。試しに、ライヴスケジュールをネットで検索してみて。メチャクチャやってるから。バンドのリーダー根本 要は、無類の音楽好き。無節操なくらい、ありとあらゆるジャンルの音楽を自分に蓄え、膨大な曲を作り、歌っています。それに、このバンドのコーラスワークは、あの達郎さんが「あいつらはPOPコーラスの日本一」と言わしめたくらいの水準です。デビュー曲はニューオーリンズR&Bがベースの曲で、ちょっとヒットした「なんとか伝説」って曲は、当時のイギリスのフォーマットな曲で。要するに何でもできるわけや。それに、テッテー的に楽しませるライヴ、ね。でも、ロック史からは漏れるでしょう。ただ評論家が取り上げないというだけでね。

スピッツも、そんなところにいそうなバンドやね。あのバンドをきちんと評価できるかどうかが、僕は日本のロックジャーナリズムの命運を分けると思っててね。えらいクールなバンド、スピッツ。95年の「ロビンソン」で聞ける「ちょっとだけ先にいるスタンス」を、以来10年間維持してきつつ展開する、日本人の記憶の奥にある音の断片をくすぐるアレンジや、あのハイトーンのヴォーカルは、全部計算の上のものです。特にあのアレンジでのビートルズやバーズ、U2をどこかで連想するギターの使い方。あれは、ある世代以上のPOPSファンには条件反射があると思う。そして、それがわかるように、わざとビートをダサくしているところ。さすが元マライアの笹路さん。ちょっとしたアレンジの極意を、メンバーに与えたのでしょう。

とにかく、これらの人・バンドは、「音楽の職人たち」です。自分の作った音を、ただひたすら演奏する。それでいいはずなんですが、どうもこの国の「紙媒体」では、それだけじゃダメみたいですね。ちょっと悪ぶって、歌詞に内実のないアホで、下品なおしゃれで、米英の音楽のパクリで、ちょっと下手で、しゃべれる。そんなのを「これがロックだー。」って言うのは、ガキだけでええやんけ。50前後で業界にいるくせにそんなのを支持している奴らは、去れ。勉強が足らん。そいつらは、いい音楽を支持する人たちの愛情を曇らせるだけや。いらん。